アルコール依存症として病院に行った話

失敗をしているのは私だけではない。極論を言えば私は悪くない!と思い込みたい。

年に数回、死にたいくらいの失敗をする。
テンパって、どうしたらいいのかわからなくなって、とにかくググる
「納期 滞納」「自制心がないクズ」「酒 失敗」などなど…。

自分と同じ境遇、または自分よりやばい体験を見て「大丈夫…死なない…何とかなる…」と心を落ち着かせたいのだが、なかなかちょうどいい事案がないと気づいた。

なので私のまぁまぁやらかした体験を晒して、後世の人々の役に立てたらと思った。
思い出したくもないトラウマ度高いやつはまだ書けないけど、記憶が風化してきたものならいける気がする。


アルコール依存症として病院に行った話

酒が好きだ。
どれくらい好きかというとこれが原因で貯金がないくらい好きだ。
さらに言うと終電を逃して朝まで飲んでしまうくらい大好きだ。

上京してから数年はそんなHAPPYな生活を続けていたが、3年前に同棲を始めてからというもの朝帰りをするとめちゃくちゃに怒られるようになってしまった。
いい歳をした大人が床に正座させられるのだ。ただ事ではない。
なぜこんなに怒られるの…?
私の中で朝帰りはさほど重い罪ではなく、
「時間を忘れて話し込んじゃった!だから朝帰りになっちゃった~!」という楽しかった証明であり、開けっぴろげに教えてあげるくらいのものだった。
「現職ならまだしも前職の人たちと飲んで朝帰りするなんて信じられない。関係を続けることに一体何のメリットが?」
と言われた時は単純にこの人がサイコパスで、世間はさほど朝帰りを悪いものと思ってないだろ!と考えていたが『朝帰り 何故怒られる』でググった結果、なんだか間接的にボコボコにされてしまった。
信じられない、誠意がない、クソ、叩き出してやれと世の朝帰りをするサラリーマンたちがボコボコに言葉の暴力を受けていたのだ。

基本的には浮気を疑われるらしい。
そんな馬鹿な!
私は浮気なんて考えたことがない純朴でハッピーな脳みそなので、私が楽しかった飲み会だから同棲相手も喜んでくれるだろう、くらいの気持ちだった。純度100の純粋無垢おばさんだったのだ。

それからというもの、終電を逃したあとはタクシーで帰宅するミッションが課せられた。
しかし高い…タクシー代だけで1週間に1万円ぶっ飛んでしまう。
なので半年に1回の朝帰りは止むを得ず…なんてことをしていたらいよいよもって口をきいてくれなくなってしまった。
さすがにやばい…ここは一発誠意を見せるか!と思い「じゃあアル中の病院に行って更生してきますわ!」と逆ギレしつつ病院の予約を取りつけた。

私はアル中なのか

アル中診断の待合室。
そこは統合失調症うつ病などの他、アルコール、薬物、ギャンブル依存など幅広く扱う精神科だった。
病院の近くにコンビニがあるのだが我慢できなくなったおじさんがヒッソリ缶チューハイを買ってポケットに突っ込み、看護師さんに退場させられる光景が広がっていた。
あ、ちょっとガチなところに来てしまったなと思った。

「初回は同棲している方も来てください」と言われていたので連れてきたが、繊細な彼は「ウシジマくんの世界だ…」と完全に怯えきってしまっている。
私も「真鍋先生は本当にきちんと取材をしているんだなぁ…」と思った。

診察する前に看護師さんから簡単な聞き取りが行われた。
正直私は毎日お酒を飲んでいるわけじゃないし離脱症状もない。
気の合う人と飲んだ時に記憶がぶっ飛ぶだけで、そんな人はサラリーマンなんかに結構多いと思う。
看護師さんが「穏やかだしちゃんと話もできるなぁ…」と言ったのを私は聞き逃さなかった。
そう、きっと私は場違いなのだ。ふらふらと迷い込んでしまった異物状態だった。

しかし先生の診察で「アル中片足ツッコミ状態」という診断を受けてしまう。
薬の処方までされてしまった。
誠意見せたし、この後は久しぶりにふたりでランチにでも行ってワインを飲も~と思っていたのだが計画が崩れてしまった。
更に先生は「明日からデイケアに来なさい」と言う。
朝からみんなで集まって夜まで一緒に過ごし、強制的に酒を飲めない時間を作ろうという治療法だ。海外ドラマで円になって「おめでとう」って言い合うみたいなあれだ。

ちょっとそういうのに憧れがあった私は、ちょうど有給が有り余っていたので参加してみることにした。
これで私の困った酒の飲み方が改善されればラッキーだし、もしかしたら友達ができるかもしれない。
ポジティブで純粋無垢なおばさんは期待に胸を膨らませた。

ちなみにその後「1錠飲んだら飲みたい気持ちがスッと消える魔法の薬(数ヵ月に解禁になった新薬)」を飲んだらホントにランチでワインを飲みたい気持ちが消えてしまい、脳みそこねこねされてるやんけ…とちょっと引いてしまった。以降飲んでいない。

アル中デイケア

デイケア行ってくるね~!」と元気よく同居人に言うと「よく行けるね…僕はウシジマくんの世界を見た感じがして生気を吸い取られたよ…」とゲッソリしていた。
私はむしろ遠足に行く気でいた。
同じ属性を持つ人とは友達になりやすい。私はちょっと世間から浮いている分なかなか友達ができないため、今回のデイケアで同じ悩みを持つ友達ができたらいいなぁ~とわくわくしていた。
しかも昼食と夕食も出るのだ。
潔癖症な私が果たしてよくわからない他人が作った料理が食べられるのか若干の戸惑いがあるが、まぁいいでしょう。
とにかく楽しみなのだ!

病院に着くとまずは女性の患者だけの階に案内してもらえた。
20名ほどがすでに揃っていて、ミーティング????を開いているようだった。
私も自己紹介をし、席に着く。

順番に『自分がどんな依存症でこれまで何をして何を失ってしまったのか』を告白する時間が始まった。
ほわ~~~海外ドラマでよく見るやつだ~~~!と感動したが、それは一瞬で砕け散った。
まずここに集まっているのはアルコール依存症だけではなかった。ギャンブル依存症、薬物依存症などすべての依存症患者が集結していた。
そしてエピソードが、もう私なんかと比べ物にならなかったのだ。

私の困った部分は「気の合う仲間と飲むと止め処なく飲んでしまって終電を逃し朝まで飲む羽目になる。記憶もだいたい無くす」という点なのだ。家ではそんなに飲まないし、気の合わない人ともそんなに飲まない。
もう飲酒はやめよう…貯金が全然ないじゃないか…と反省しているにも関わらず飲みに行ってしまうだらしなさが問題なのであり、酒が原因で借金をしているわけでもなければ人間関係も破綻していない。
私は自分の生活が最低限守られた状態での飲酒しかしていないのだ。

ここに集結した戦士たちは違うのだ。
たぶん依存症が二次障害なのだ。
最初に大きなうつを患うだとか、知的障害を持っているとかがあって、そのつらさから飲酒などに逃げている人がほとんどなのだ。

あああああ~~~完全に場違いなところに来てしまった~~~!
私の番が回ってくる。
「ろ、ろっぽんぎで毎日朝まで飲んで、タクシーで帰宅しています…い、一応仕事には行けているのですがこのままではまずいと思い参加しました…」
毎日なんて飲んでない。完全に盛っている。盛っているのにここではパンチが弱い。戦闘力たったの5。ゴミである。

みんな私が「ちょっと違う」と気付いたようだった。
そもそも見た目からして違うのである。一生懸命に依存症と戦っているのであまり身なりを気にしていない人が多い中、友達を作ろうと気合を入れてきた私はオフィスカジュアル状態なのだ。
これは詰んだ。
昨日の時点でどうしてガチ度に気づかなかったのか…どうして私はここまでポジティブでいられたんだ…。

そんな中、何人かはルールなどを親切に教えてくれた。
「休み時間中には外に出てもいい」「タバコはあっち」「ご飯の配膳は係が決まっているからやり方見ててね」
しかしここで私は自分の衝撃的な特性を思い出す。
私は恐ろしいほど集団行動が出来ない人間だったのだ。
小学校の時点で連れションが理解できず、誘いを断り変人扱いされていた。中学校では休み時間空き教室に忍び込んでひとりで過ごしていた。高校でもHR後教室から1番に飛び出していたし大学4年間で出来た友達は片手で収まる。
もう1時間でアウトである。眩暈がして叫び出したかった。
まずルールが無理なのだ。集団で生きるためのルール。
私は制作系の会社にいるのだが、基本的にみんな「自分にしか興味がない人たち」だった。
私が何をしても咎められることはなかったし納期までに物を作れば何も文句は言われなかった。
しかしここではヒエラルキーを感じる。目に見えないリーダーがいて、目に見えないローカルルールがある。
残念ながら私にその空気を読む能力はない。

「刑務所の方がご飯おいしかったわ!」という会話を聞きながらお昼を食べ終える。
2時間の休憩時間があるということだったので私は近くのファミレスに避難した。
心が震える。
もうだめだバックレようという気持ちと、せめて一言先生に断って帰ろうという気持ちと、さすがに1日だけはいようという気持ちの間で戦っていた。

というかこんなに集団行動が苦手だなんておかしい。狂っている。社会性ゼロだ。
この当時自分が発達障害なのでは?という疑惑があったので、ここで発達の病院を予約した(後にビンゴだと判明する)。
この踏ん切りがついただけでも今日は無駄じゃない。そう思いたかった。

f:id:k-hana-k:20190916044340j:plain

同居人に送ったLINEだ。完全に心が折れている。
しかも送信日は2019年4月30日である。平成最後の日に何をやっているんだ私は…。

とりあえずバックレはだめだよと諭されたのでヨボヨボと病院に戻る。
看護師さんに「無理です…明日から私来ません…無理でした集団行動…」と泣きつき、とりあえずの了承を得る。あとは午後の数時間…頑張ろう。人生で考えたらほんの一瞬だ…。

午後は脳トレの時間と聞いていたので黙々と集中できるものがあるなら何とかなるかな…と思っていた。
しかし配られたのは小学生くらいのワーク1枚だった。冊ではない。枚である。
こんなの秒で終わっちまうじゃいか…と解きはじめすぐに終わってしまった。
周りを見渡してみる。終わっているのは私だけだった。
というより問題を最初から解く気がなく寝てしまっている人、問題に躓いている人がほとんどなのがショックすぎた。
もうみんな疲れきっていて気力がないのか…?
しかしまだ問題を解く時間はたっぷりと残っている。ぼーっと待ち続ける1時間は地獄でしかなかった。

その後はゲームをするとのことだったのだが、手作りのパターゴルフだった。
パターゴルフ…?だったのか?あれは…?
手作りなのでとても小さい。そもそもパターのクラブがない。百均で買ったおもちゃの魔法のステッキでピンポン玉を打つ。
幼稚園並みのクオリティに眩暈がした。これをみんなに見守られながら笑顔で打たなければならない。集団行動が苦手、嘘がつけない、馴れ合いも無理、職員の人が一生懸命に作ってくれたゲームに対して文句をつけてしまいそうになる私にはもう地獄でしかなかった。正直少し気絶していた。記憶が曖昧だ…。
こんな風に扱われてしまうのか…依存症になるとここまで大人として扱われなくなってしまうのか…ぶっ倒れちまいそうだった。

地獄の時間をクリアし、夕食となった。
配膳が行われ、適当に近くのものを取ったら「あなた小盛りで申請してないでしょ?普通盛りのやつを取って!」と怒られる。もう食べんでいいよと言いそうになりながらすみませんと言う。そんなルール聞いてませんがなof the yearである。
こういうのも絶叫レベルで無理なのだ。ここのルールが世界のルールだと思っている人とうまくやっていけないのだ。
トイレに入れば「流したの?」と聞かれる。逆に流さないとかある?という言葉を飲み込む。みんなきっと私の異物感を感じ取っているのだ。

じっと待っていると私の診察の時間がやってきた。
先生と話をして、このデイケアは終了である。
長い長い1日だった。
診察室に入り開口一番「無理でした」と告げるが先生は引かなかった。
「最初はみんなそう言うんだけど続けることに意味があるから…」
冗談ではない。嘘をつかない私は正直に「今ここで早く帰るために「わかりました」って言いますけど明日から来ないです」と言ったらようやく折れてくれた。
「じゃあ薬だけもらいに通院して…」と言われて元気よくはい!と答えたがあれから行っていない。

後に発達障害と診断され、私のアルコールが止められないのはこちらが原因だったことが判明する。

それにしても学びの多い1日だった。
私は自分を中心に考えがちであった。私みたいにポジティブで強い人たちがいるものだと思っていたがまったくそんなことはなかった。
社会人になるとコミュニティも選択できるので自分と同じく強い人たちと一緒にいることが多かった。まさかこんなに脆い人たちがいるのかと衝撃を受けた。
知らなかったのだ。こんなにつらくもがいている人、もがく気力なんて何もない人、そもそももがき方がまったくわからない人がたくさんいるんだな…。
人にやさしく生きようと思いました…まる。